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執筆者の写真中井 康寛

日銀が描いた“シーソーゲームのシナリオ”を読み解いてみる

こんにちは、FPの中井です。

NISAをきっかけに運用がとても身近になりましたね。


クライアントの方々とお話しをしていても取り組まれている方が大多数。

実行に至ってない方でも関心の強い方もやはり多数。

私が新社会人として証券業界に入った2000年初頭のころは、まだ運用と日常が切り離されていたことを考えると大きな変化です。



運用が日常にとりこまれてきた

これだけ情報発信があると、やらないことで取り残される感じもあったりしませんか。

はじめるきっかけが少し後ろ向きな方だって当然いるのではないでしょうか。


そして、そうやってとりあえず取り組んだはいいものの、それが成果にならない、むしろマイナスになって返ってくるかもしれないという・・・。

このいわゆるリスクに対して「そういうもんでしょ」と異口同音できる環境、それが運用が日常に取り込まれた、ということではないかと私は思います。


日常に取り込む際に使う手法こそ「長期・積立・分散」ですね。これによって放ったらかすことがむしろ強みに変換されます。

基本的にはこれで仕込みが完了。あとはワインのごとく待つ。ただひたすらに。でした。


確かにそれでも良いのですが、盲目的になることと、意識的に無視することには大きな差があるようにも思うのです。

せっかくならワインにどんな化学反応が起きているのかを知ることで、より関心も強まります。それを分かった上で寝かせる。

なんかちょっと深みが増しませんか。楽しそうですし。



損得の数字だけでとらえるのはもったいない

考えてみたら投資先である株や債券は、いわば国や企業の化身のようなものであり、その動きは私たちが生きる世界の潮流を映します。

単に損得の数字だけでとらえるのはもったいない。世の中で何が起こっているのかを見つめる手段として考えてみると、もっと運用が面白くなるかもしれません。


そしてリスクに対しての耐性も変わるかもしれません。

何が動いているのか、なぜ動いているのか。

おぼろげながらでも、変化の正体を理解することで次の一手が見いだせます。


実はこれ、FPが日々行うライフプランの作成にも共通する部分があります。

私たちはクライアントの方から収支の全体をヒアリングし、それを落とし込みながらお金の動きを視覚化していきます。それがライフプラン。


漠然としたものに輪郭が当てはめられることで、皆さんはこれまでとは異なる材料を使って、新しい視点で現状やこれからを見つめ直すことができます。それが安心や行動に繋がるきっかけとなります。


運用においても似たようなことが言えるのではないか。

であれば、その補助となる発信を何かしてみよう。

ということで日経新聞1面の見出しからテーマを拝借し、それを使ったコラムにしてみました。



日銀のシナリオ「金利はそのまま。でも金利を上げるシナリオは変えていない。」

初回はこのコラムをやってみようと思った11/1の日本経済新聞の朝刊見出し

【日銀、利上げシナリオ堅持総裁「市場、以前より安定」 10月会合は金利据え置き】からテーマを拝借しました。今となってはちょっと前の記事ですが。


内容を一言で言うと、10月の会合でも政策金利を0.25%のままでいいよね、と決まりました。というもの。


金利はそのまま。でも金利を上げるシナリオは変えていない。

ふーん、そうなんだ。

から次の記事に移らずに、もう少し立ち止まって考えてみますと、


なるほど・・・でも、

シナリオを持っているならさっさと上げてしまってはダメなの?

いや待てよ・・・

そもそも上げたほうがいいんだっけ?

上げるとどうなるんだっけ?

あれ?日銀にとっては上げた方がいいの?


ポコポコと疑問が湧いてきます。



金利が上がるとどうなるか

金利が上がるとどうなるんでしょうか。

逆に考えれば、金利が上がってこなかった日本で私たちはどんな恩恵を受けていたのでしょうか?


例えば住宅ローンの金利はびっくりするくらい低いので今のうちに住宅購入を考える。

でも銀行預金の金利も低いため、増える期待もできないから運用もしないと・・・とも考える。

などでしょうか。

本コラム冒頭のNISAを検討する大きな要因の一つですよね。


最近クライアントの皆さんとお話をしていると、物価高を「恐怖」くらいに表現される方も珍しくありません。金利が高ければ多少物価が上がっても、それを補えるくらいは自動でお金が増えてくれているはずなのに。


逆に考えていたものを戻してみる、つまりはこれらがそうでなくなる、ということになります。


金利が上がることで住宅ローンの返済負担が大きくなるが、銀行預金金利は少し上がる、それによって運用の魅力がちょっと薄まる・・・?



日経新聞の見出しでは、こんなことを日銀はシナリオとして持っている、ということを言っています。



どうして日銀は金利を上げようとしているか

なぜ日銀って金利を上げようとしているのでしょうか。

もちろん理由は様々ですが、日銀は「通貨の番人」としての責務があることがその1つです。

通貨の価値を守らないといけません。


今大きな関心事である「円安」とは円の価値が「安くなる(下がる)」こと。

1ドル=100円 ➡ 1ドル=200円 は円安です。 

それは1ドルに替えてもらうのに1円玉が100個でよかったものが200個必要になったわけですから1個あたりの価値は明らかに下がっています。

輸入したい野菜が1ドルであればそれを購入するのに必要な円はたくさん必要になる、だから物価も上がってしまう。


7月頭の円相場は1ドル160円近くまで進んだことは記憶に新しく、実に37年半ぶりの安値となりました。

過度な変化はあまりよろしくありません。なんでも物事は腹八分目くらいが良さそうです。

まずいとするなら早く修正しないと!でもどうやって?


その手段が利上げ、ということになります。

だって金利の高い通貨はみんな欲しいですよね?

現在ドル資産に関心が高いのは、やはりその金利水準に魅力があるからです。

なるほど、じゃあ早くどんどんと上げていきましょう!・・・シナリオを語らずともそうすればいいんじゃないか。

何をしてるのよ・・・と。


彼らは何をそんなに気にしているのでしょうか?


為替なんていわばドルと円とのシーソーゲーム。

ということは日本のことだけで動くわけでは無く、米国の動きも大きく作用してくるということ。

そして、日銀の金利操作というものは一度一方に舵を切ると、簡単には見直せないという特徴があります。

住宅ローンが上がったり下がったりを繰り返したら、住宅の購入に戸惑う人が増えてしまいます。

よって、米国の状態を横目で見なければいけないということ。

だからシナリオはあるけど動かない、動けないという状態になっているんですね。



シーソーゲームの相手 アメリカの状況は?

では、気になるアメリカの現状ってどうなっているんでしょうか。

現状を何で判断しましょうか。ぱっと思いつくのは景気です。

景気の現状を知る指標としてGDPというものがあります。



【国内総生産:GDP】

一定期間内に国内で産出された付加価値の総額のことで、国の経済活動状況を示しています。

GDP=民間消費+投資+政府支出+純輸出という構成になっています。



アメリカの7〜9月期の国内総生産(GDP)は前期比年率で2.8%増と高い伸びを示した、とありました。

景気はしっかりしてるようです。

なんですが、これって意外な結果だったりします。もっと崩れるとみんなは考えていたんです。

なぜでしょうか。


日本と比較すると大きく異なっているものがあります。それもまた金利。

コロナショックのために0近くだった金利は物価対応のために2年ほどで5%近くまで上がりました。

これも一例として住宅ローンで考えると、こんな状態になったらみんな不動産を敬遠します。

壁紙も売れない、冷蔵庫も売れない・・・・みんなが買ってくれないのでモノの値段が下がる。

ことを狙って引き上げました。

これは見方を変えれば、物価退治のために景気を犠牲にするのもやむなしとしたということです。


それなのに、景気がしっかりだったというデータが出てきたわけですね。


???


でも気になります。なぜ景気の犠牲は少なく済んだのか。

内訳を探ると、上記の式でいう消費がしっかりとしていたようです。みんなモノを買ってたんですね。

とはいえ、消費だってお金がなければそれもできないですし、今後の見通しが不安であれば財布のヒモを締めてしまいます。

実際には支えとなっていたのは、物価上昇率を上回る賃上げだそうです。これが米国では実現していたということです。


もし仮に景気が腰折れしていたら、その時はこれまでの動きと逆向きの行動に出ないといけなくなります。

米国版の中央銀行はFRBですが、つまり利下げに動こうとします。



日銀が描いた“シーソーゲームのシナリオ”はどうなるか

2022年からそのままの日本とガンガンに金利を上げた米国。

その結果どんなことが起こったか。それは円安が加速したということです。

今後利上げをしようと画策する日本と利下げするかもしれない米国。

真逆の動きをすることで円高が加速・・・・・。


こうなってからまた日本が金利を下げるというわけにはいかないのは先ほど確認したところ。

だから動く機会はとても大事なんですね。米国の状態を見極める必要がある。



さてさて、この文章を書いている間にトランプ氏の当確となりました。

金融政策においても、手ごわい相手がシーソーの反対側に座りましたね。

シナリオの書き手にとってアドリブをする役者は大変厄介だと思わざるを得ないのですが、

配役が決まった今、日銀が描いた“シーソーゲームのシナリオ”はどうなるのでしょうか。



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